【Road to KONA 2014】 アイアンマンNEWZEALAND参戦記 ~石田選手~

3年連続で出場してきたIMハワイへの道が昨年途切れました。6月のIM70.3セントレア ではトランジションタイムの差、40秒差でスロットを逃しました。8月の満を持して臨んだIMカナダではスイム、バイクで調子が上がらなかったことや、またもやトランジションの遅れで、10分以上の差でスロットを逃しました。その一方、バイク全体の調子が悪かったわけではなく、特にランは両レースとも満足のいく内容であっただけに、ハワイの切符が取れなかった理由が今一つ納得出来ず、不完全燃焼の思いの中、昨年はシーズンを終えました。何とか今年はリベンジを果たすべく、3月1日のニュージーランドのレースに参戦を決めました。ただし3月初めのニュージーランドでのレースは、寒い冬にトレーニングをしなければならない一方、ニュージーランド人は夏のピークパフォーマンス中であり、ハワイを狙うのには最善の選択とは言えませんでした。しかしながら、何とか今年は早めにハワイへの切符を確保しておきたいという強い思いで、参戦することとしました。

ニュージーランドでのレースを考えるに課題の一つが気温の寒さ。昼間の気温は20度を超えるものの朝の気温は6度であり、スイムそしてバイクにはかなり寒い温度。やせていて、体脂肪の少ない自分は寒い中でのレースは苦手であり、パフォーマンスが今一つ上がらないのは去年のカナダで経験済み。何とか寒さを克服すべく、レース前に寒さ防止のオイルを塗ると共に、T1に余分な時間をかけてでもスイムアップ後は、バイクジャージ、アームウォーマー、グローブを着用することとしました。尚、ハワイのスロットは自分のエイジではおそらく昨年同様5枠であり、その枠内に収まるには、10時間以内でのフィニッシュは必須であろうという予想の下、サブ10を意識してレースに臨みました。

(スイム)

朝の気温は6度と肌寒いものの、水の温度は19度であり、逆に水の中の方が温かいという状況。よってスイム中は余り寒さを感じることが無い。スタートから多少のバトルはあったものの、余り気にならない。極力ドラフティングをしながら、かつ伸びを意識して進む。泳いでいる限り、極めてスムーズに進んでいるような気がした。

それなりにいいタイムで泳げているかなと思いスイムアップで手元の時計を見ると1時間12分。いつものスイムより4~5分遅いのでショック。去年のカナダに続いて、またしても1時間10分を超える遅いタイムとなってしまった。ちなみにエイジではこの時点で91位と言う苦しいスタート。スイム後には、400Mの長いT1ランがあるが、何とか遅れを取り戻すべく必死に走る。

(バイク)

バイクは2往復するコースであり、下見で見た限り、多少のアップダウンはあるものの、激坂は無く比較的楽なフラットコース。ただし道路の路面が荒いため、常にガタガタと振動を感じる中、スピードが出にくいとの印象。又、バイク序盤の気温が10度以下と寒いため、寒い中どこまで調子をあげてこげるかが懸念であった。

予想外に出遅れたスイムのロスをカバーすべく、バイクの目標タイムは5時間20分に設定。走り始めると思ったより寒さが気にならない。心拍数は145近辺まで上げてこぎ続けた。往路は追い風に助けられ、時速40キロ位の高スピードで飛ばし、ひたすら先行する選手を抜き続ける。まずチームメートの諸岡選手、しばらくして峯野選手をパス。折り返しで丸田選手が、かなり先を走っているのを確認し、さすがに焦る。どうやら自分のスイムはチームでビリであり、かなり他の選手に差をつけられているのが明らかになった。特に快速ランナーの丸田選手には、バイクで差をつけておかないとランで追いつかれる可能性があるので、何とか早めに追い付こうと決意。そしてひたすら周囲の選手を抜き続け、前方にいた女性に近づいたところ、後ろからマーシャルの気配が。抜くにしても、前には多くの選手が列をなしており、それらを一気に抜き去るのは難しいように思えた。よって抜かすのは諦め、差が詰まりすぎた女性との差を空けるべく、スローダウン。しかしマーシャルが自分の横を通り過ぎる際に、レッドカードを自分の前に放り投げた。「えっ!まさかのドラフティングペナルティ?」半信半疑ながら、マーシャルに何度か尋ねるが、どうやら自分のドラフティングは揺るがないよう・・・。ショックだった。自分がドラフティングをとられたのは、2005年のレース以来、2度目。4分のペナルティを受けている間は、動いては行けないという厳しい指示。ひたすら他の選手に抜かされる。長い4分のペナルティを終えて、焦る気持ちでタイムロスをカバーしようと思うが、向かい風でスピードが出ない。また思ったより小刻みなアップダウンがきついことが分かってきた。同時に心拍数も140代前半まで落ちてきた。そうしているうちに、大分前に抜いたはずの峯野選手が前に見える。どうやらペナルティの4分間の間に抜かされていたらしい。気分が少し落ち込む中、90K近辺でタイムをチェックすると2時間45分のラップタイム。このままでは目標のバイクラップ5時間20分、そしてサブ10フィニッシュが遠ざかると危機意識が生まれる。よって2周目はより追い込むことにし、心拍は148近辺まで上げた。しかしながらまたも復路の向かい風ではスピードが落ち、心拍数も下がってきた。そうこうしているうちにバイクフィニッシュまでの距離が近づいていく。どうやら頑張っても5時間30分位でしかフィニッシュ出来ないことが確実になってきた。スイムに引き続いての、予想外に遅いバイクラップに落胆(ただし記録を見る限りに、総合で716位だった順位はこの時点で274位。よって440名の選手を抜かしたことになる。又、エイジでの順位も91位から32位へ前進)。

(ラン)

ランの開始時の総合タイムは6時間55分。サブ10を達成するには3時間5分でフィニッシュしなければいけない。これは極めてバーの高い目標であった。しかし2年前のIMメルボルンでは3時間9分でランを走れており、それを上回る好記録が出せれば奇跡は起こり得る、と出来る限りのベストを尽くすこと、そして少なくともチームメンバーで先行する大西選手、若山選手をとらえることを目標に走りだした。

気温は20度前半と走りやすい。序盤はキロ4分前半ペースで、ひたすら前の選手を抜かした。ただし昨年のIMカナダで25K過ぎに突然壁にぶち当たりスピードが落ちたことから、極力30K以降まで走れる足を残すべく、心拍数は150を超えないことを意識してラン。ハーフの21キロ時点でのタイムは1時間35分位であり、ほぼキロ4分半でのランであることが分かった。それはいいペースであるものの、同時に3時間5分でのラン、サブ10フィニッシュは難しくなったことが明らかになった。しかしそれを気にするよりも、前に先行していいペースで走っている若山選手を抜くことに集中。一方、気になったのが、はるか前を走っているはずの大西選手が全く見えないこと。かなり引き離されているのかと思うと、気持ちがめげてくるが、とりあえずネガティブな思いは取り去り、無心で走る。そう、この無心で走ることを、皇居のロングランで意識した。コーチのマーク・アレンの教えの一つは、「心にネガティブな思いが入り込んできた時は、心を落ち着かせ、無心になること。そうすれば、自然に心と体が一体になり、無理に頑張らなくても、楽に身体を動かすことが出来る」というもの。そうした禅の教えにも似た「無の境地」で走ることを意識して、レースでも走った。そうこうしているうちに若山選手にようやく26K位で追い付く。スイムの速い若山選手とはスイムで既に20分近く差がつけられていたはず。多少バイクで差を縮めたとはいえ、やはりスイムの差を埋めるのに、ここまでかかるのかとスイムの重要性を再認識。ただし依然として大西選手は見えず。少なくとも前を走っているはずの大西選手を抜かさない限り、ハワイへの切符を手にすることは不可能に思えた。大西選手を抜かすまでは、疲れを感じている場合ではないだろうという強い気持ちで走っているうちに、30K、35Kが過ぎていった。この頃から、足の痙攣がハムストリングス、脛に時折発生し、スローダウンを余儀なくされる。しかしフィニッシュまであと少しと気持ちを奮い立たせ、ひたすらゴールを目指して走る。フィニッシュラインを目にしたところで、一つ上のエイジの選手に近づいた。エイジが違うので無理して抜く必要はないと思っていたところ、MCのアナウンスで前を走る選手が往年の有名プロ選手(アイアンマンニュージーランドの第一回優勝者兼ハワイの優勝経験者)であるスコット・モリーナであることが分かる。ほぼ同時にフィニッシュし、せっかくなのでモリーナ選手と握手をし、お互いの健闘をねぎらう。ランのフィニッシュタイムはほぼ3時間15分で、総合タイムは10時間10分であった。

レース後は、ハワイへのスロットはおそらく逃したものの、持てる力を出し切ったのでそれで満足すべきだろうと思いながらぶらぶらしていると、同じエイジカテゴリーでグローバルランキング1位の日系人ドイさんに出会う。彼からは以下のサプライズの言葉をかけられる。「石田さんは7位でしたね。自分は5位、そして自分の友人は6位だったけど、二人ともスロットは既に獲得していて、キャンセルするので、石田さんは実質5位。だからハワイのスロットはとれたでしょう。おめでとう!」。驚くと共に、急に嬉しさがこみあげてきた。とはいえ、まだ明日の発表を聞くまでは安心出来ないと、喜びをかみしめながらレースの余韻に浸った。そして翌日、ロールダウンでスロットを獲得し、そこで安堵すると共に、喜びを十二分に味わうことが出来た。

石田さん、本戦ハワイでのベストパフォーマンス期待しています。

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Triathlon “ MONO ” Journalist     Nobutaka Otsuka